「五分後の世界」(1994) 感想 「平行世界を通した現代日本への批判」
評価:★★★★☆(星4 今のところ)
今回の結論
300ページ中、9割が状況説明。ただ残り1割に突き刺さる今の日本へ批判がある。
各リンク
特になし。
WikipediaやAmazonレビューはネタバレがあるので見ないほうが良いかも。
今回の目次
概要みたいなもの
3月に買って2ヶ月くらいかけて読んでいった。僕が好きなマブラヴの原作者の吉宗鋼紀さんやペトロニウスさんがものすごいおすすめしていたので、買ってみた。最初は1日2ページずつしか進まなかったけど、だんだん世界観がわかってくると、一気に読み進められた。
「5分後の世界」に興味がある人に対してネタバレがないように簡単に説明すると、
「もしも日本が第二次世界大戦を降伏してなかったら…」
この作品は第二次世界大戦で降伏をしなかった日本が舞台のお話。日本はアメリカやロシアに分割統治され、日本人は26万人まで激減している。そして日本人は富士山のあたりにアンダーグラウンドと呼ばれる巨大な洞窟を作って他国に抵抗している。その一方でその日本はゲリラや戦争から生まれた世界最高の技術や戦略を輸出して世界に大きな影響力を持っている。そんな世界に主人公は気がついたら飛ばされていて、アンダーグラウンドへ向かう集団とともに行動しているとこからこの物語は始まる。
いわゆるパラレルワールドってやつですね。今風にいうと転生ものですかね。もしくは異世界?。異世界も転生もあまり読まないのでよく分からないですが。比較的会話が少なく文章が300ページにびっしりあるのでけっこう頑張って読んでいく必要があります。「5分後の世界」は最初から誰でも読みやすいようには作られていなかった。状況の描写を通して少しずつ世界観を説明していました。
異世界はこれのアニメくらい。いい感じで素直にたのしめたなー。
この素晴らしい世界に祝福を! あぁ、駄女神さま (角川スニーカー文庫)
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パラレルワールド好き、ミリタリー好き、現代日本の批判や欠陥?が気になる人、マブラヴが好きな人にはおすすめだと思います。
感想
村上龍の作品は初めて読んだし、文学風な作品はあまり読まないのでいろんな意味で新鮮だった。最初は世界観の説明は本の1/3を読んでも特になく、よくわからないなーと感じていた。でもそれがこの作品の見せ方なのかなと後で思った。何も説明しないことによって主人公と同じ状況を味合わせたいのだと。いきなりアンダーグラウンドに向かう集団と行進していたり、兵士に身体検査されたり、留置所に入れられたり、何より急に戦闘が始まる。しかも戦闘が長い50ページくらい戦っていた。読んでいた自分も疲弊してきちゃったよ。ある意味作者の思い通りになったのかもしれない。
まだ1回読んでその後に各シーンを見返しただけなので考えが足りないかもしれないが、僕が感じたことは2つあった。
失敗から学ぶ
なぜそのようなことが起こったのでしょうか。いろいろなことが考えられます。まず、戦争でもっとも大切とされる補給や情報や科学技術が無視されたこと、それに、さらに大切である生命というものをそんちょうしなかったことです。そして、軍の指導者だけでなく、日本人全部が、「無知」でした。戦争する相手の国の力を知らない、言語も分からない、文化や風習も知らない(中略)。またなぜそれほどまでに「無知」だったのでしょう。それはそれまで本当の民族的な危機というものを体験したことがなかったからです。(中略)。もし、本土決戦を行わずに、沖縄をぎせいにしただけで、大日本帝國が降伏していたら、日本人は「無知」のままで、生命をそんちょうできないまま、何も学べなかったかもしれません。
僕は歴史に詳しくないのであまり大それたことは言えないが、ようするに今の日本が失敗を生かせていないでいるってことだよね。歴史の教科書の後にその後に5分後の世界の人が、あの時降伏したら日本はアメリカの奴隷になっているとか、文化的な危機感はゼロになるとか、政治はアメリカの顔色を伺うようになるとか、ものすごい日本の現状についてつっこんでるな。歴史は詳しくないがそういう風に書くってことは、そういう一面があるってことなんだと思った。僕自身には戦争が失敗かどうかは判断できないが、歴史というものに興味を持つきっかけになった。
最初読んだ時は、「無知」ってことが悪いものなのかなと思ってたけど、よく読むとそうでもなさそうだった。
ニューギニアやガダルカナルやビルマで戦った兵士達は、日本の歴史が始まって以来、もっとも苦しみ、もっとも貴重な情報を得た人々だ、彼らは、兵士として、海外とかかわった、外交使節団やわずかな商社員、ひとにぎりの留学生を除いて具体的に海外とかかわったのは有史以来彼らが最初なのだ、無知だったために戦争犯罪もあった、だが、彼らは、戦闘どころか、生存さえも困難な状況で戦い続けた、そうやって彼らが得た情報をムダにすることは許されない、いいか、絶対許されないのだ、その民族が生き延びていくためには次の世代に大切な情報を確実に伝えていかなくてはならない、
つまり「無知」であることは全然問題ない。一番ダメなのは失敗から学ばないこと、ってことですね。本当にズバズバ突っ込んでいくなー。村上龍。
自分の考えを持つ
自分のことを自分で決めようとすると、よってたかって文句を言われる、みんなの共通の目的は金しかねえが、誰も何を買えばいいのかしらねえのさ、だからみんなが買うものを買う、みんなが欲しがるものを欲しがる、大人たちがそうだから子供や若い連中は半分以上気が狂っちまってるんだよ(中略)要するに一人で決断することができなくておっかねえもんだから、あたりを窺って言いなりになるチャンスを待ってるだけなんだよ。
「5分後の世界」では第二次世界大戦でボコボコにされて、「無知」から学んだことを反省した結果、一人一人がしっかりとした意思を持って行動している。それに憧れて亡命的なことをしていく人がたくさんいる。実際にトンネルでの戦闘が終わるまでにいろんな人が自分自身の意見を持って話しているし、それを日本側も咎めている様子は描かれていない。だから上のセリフを主人公が吐く前に「この世界を気に入った」って言ったのかなー。どうなんだろ。
しかし、大切なのは価値観や目的意識ではありません。ここが、われわれ日本国とアメリカの最大の違いです。もっとも重要な、生き延びていくこと、生存そのものです。(中略)生き延びていくために必要なものは、食料と空気と水と武器、そういうものだけではありません。勇気とプライドが必要です。
敵にもわかるやりかたで、世界中が理解できる方法と言語と表現で、われわれの勇気とプライドを示しつづけること、それが次の時代を生きるみなさんの役目です・・・・・・
生きることが大切っていうのは改めて言われると確かにそうだなと思う。当たり前すぎて考えたこともなかった。当たり前の生きるということを踏まえた上で、実際生きていく上で自分自身がどのように生きていきたいかってことを考えることが必要がある。塾の生徒や僕自身の親がそうだったのだけど、自分の経験や考えでものを語ろうとする人が少ないなっていうのは感じる。
マブラヴオルタネイティヴの感想でも書いたんだけど、
つまり自分で考えて目標を立てないと、状況は変えられないってことですね。実際、就活でいろいろな業種を受けたり、大学受験でとりあえず高い大学を受けるっていうのは自分のやりたいことでさえもまともに考えていない人が多いのかなっていうのが僕の印象です。僕の周りで就活がすぐに終わった人は、やりたいことや目標がはっきりしている人でしたね。受験の時も第一志望に受かっていた人は、こうしたいという目標がはっきりした人だった。中学生にあまり勉強する意味を求めたくはないけど、高校生くらいからは自分で勉強する意味を考えるべきだと思う。塾で生徒を見ていた時は、成績を上げることが目的で、そのあとにどうしたいって人はいなかった。数学の成績を上げたい。英語の成績を上げたい。それはいいけど、それをしてどうしたいの?って思っていた。好きなことはなに?って面接で聞いても特にありませんって答えがだいたい出てくる。この現状を見ていると上の引用のセリフの重みがじわじわきた。「5分後の世界」は1994年の作品だが、今でもこれは変わっていないと僕自身の経験から感じた。
個人的には「考えること」って部分を少しずつ伝えていく必要があるのかなって思う。社会的には自分の意見を考えることが求められているとは感じる。就活でも散々聞かれたし、ウザいくらい(笑)。就活本は読んだが、正直あまり好かなかった。そんなに様々なパターンを用意しないとだめなの?。実際に面接官に画一的な返答についてどう思うか聞いてみたら、つまらないからやめてくれって言ってた。どんな質問しても、待ってましたとばかりに同じようなことをしゃべるそうだ。「チームプレイ」は聞き飽きたみたい(笑)。あとサークルリーダーとバイトリーダーが多発すると言っていた。あと塾講師。でもそういう本が売れるってことや就活スクール、それだけ空っぽの人がおおいってことなのだろう。就活本自体が悪いってわけではなく、自分のことを考えてそれに対してしっかり行動をしたことがない、つまりなんとなくの行動しかしていないことが悪いと。そのためゴールに対する結果や過程がわからずに就活本にあるような画一的な返答になってしまうのだろう。
こんなもの読んで対策するくらいなら、自分のやりたいことを決めて面接の数をこなした方がいいよ。(個人の意見です…的な)
具体的な目標が描けてない人が多いっていうのは、僕自身もかつては特にやりたいことがなく状況に流されるだけの状態だったので(今でもそこまではっきりした目標があるわけではないけど)、自分の行動を決めるためにも自分の意思を持つってことはすごい大切だと思うんですよ。自分の意見を持つことの大切さをもっと広げるべきだと個人的には思う。確かに命令されることは楽かもしれないけど、それはそこで思考が停止するんですよね。ある大学の教育学部があって、そこの大学は選択授業性なんですけど、教職の授業以外も同じ教科を受講していた。なんでその授業とるの?って聞いたら「みんなやってるから」って言っていた。授業の意味より、他の人の流れに沿っているだけだと思った。大学生のくせに中学・高校の延長かよって感じた。昔は先生ってなるのは難しいものだとと思ってたけど、大学に入って誰でもなれるって言うことがわかった時に少しがっかりした。とりあえず言われたことをそのままやってきて、その人が先生になるってことが恐ろしく感じた。結局その人は国から言われたようにただ教科書の内容を教えるのだろう。そして何のために勉強するかわからない人が塾に来るって言うことになる気がする。先生は自分が「先生」と呼ばれるに価する人間なのかっていうのを問い合わせてほしい。って塾で教えていた時に思ってたわー。
僕は先生じゃないから適当に流していいけど、先生になる人は社会人経験を積んだ方がいいと思うんだよね。そうでないと、高校→大学→就職先の学校、と学校の外側を見ないことになるのではないかなー。
まとめ
この作品は万人うけはしないだろう。アンダーグラウンドでの会話や資料のところが一番面白かったが、そこにたどり着くまで頑張って120ページ読まないといけない。だけれども前半の過程があるからこそ中盤の説明が響いてくる。そこらへんがマブラヴとにているなと感じた。アドベンチャーゲーム化されているのもなるほどと思った。この作品は映画よりもじっくり文章を読んでこそ内容が伝わる。
やってみたいけど、さすがにPS2はもってないなー
この作品を通して改めて日本というものが現在どうなっているのか、またこれからどうあるべきなのかという部分を考えるきっかけとなった。個人的な意思についても考えを深めていきたい。時間を空けてもう一回読んでみよう。
今回はだいぶ固い内容になったなぁ。いつもこんなに固いわけではないですよー。
ゆるい記事。水着のお姉さんが非常に良い。
それではー。