物語の思考法

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終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか(2017)アニメ 感想 主人公の背景が薄いです…

終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? (角川スニーカー文庫)

評価:★★★☆☆(星3.5)
 

 

小説版と同じく、いまいち感動できなかった。1話の冒頭と12話の最後の演出がすごくて、そこだけ見ると感動できるんだけど、そこに至るまでの過程が微妙だった。
 
結論としては、ヴィレムの1話時点での背景や心理描写が薄いためいまいち感情移入できなくなる。そのため最終話までのヴィレムの成長がわからなくなる。そして連鎖的にヴィレムの影響を受けるクトリの感動、つまりこの物語の重要な部分が微妙になってしまった。
 
物語中でしっかり世界観を説明していて、舞台はしっかり整えていた。
今回の物語で重要なのがクトリとヴィレムの関係性になる。そしてやりたいことが、最終話のあの演出をやるために12話の過程があることは間違いない。
 
アニメ版だけに限って言えば、今回のアニメではクトリの死に対する考え方の変化を描きたかったはずだ。だけど、その考え方の変化の根幹に関わる要因であるヴィレム自身の背景や心理描写が不足している。
 
1話の時点でクトリが獣を道連れにするために死ぬことが決まっていた。そのため後悔をなくすために1話で浮遊島を見学している。けれどもヴィレムに出会って死ななくてもいいんだという可能性を示されて、生きていたい願う。そして獣との戦いから帰ってきてヴィレムを好きになる。その後幸せな生活を送りながらも、クトリの精神は侵食で徐々に失われていく。
 
そしてクトリを救うために地上へ向かい、獣の正体が人間であることにショックを受けたヴィレムから急に告白を受ける。そして幸せになる。しかし突然幸せな生活に終わりを迎える。飛行艇が獣に襲われてヴィレムも死にかける。クトリはヴィレムを助けるために飛空挺から飛び降りて獣に立ち向かう。その時点でクトリは自分の記憶が完全になくなりかけていて、戦ったら死ぬことが確定している。だがその時にはクトリはもう幸せで、死ぬことをいとわなかった。
 
的な流れだろう。
 
物語中のクトリの成長は、死に対する想いの変化が重要なポイントになっている。1話の時点では言われるがままに死を選んでいたが、12話では自分の意思で死を選んでいる。その理由が幸せだから、ヴィレムとの生活で幸せになったから。この変化は僕は好き。しっかりとクトリの精神的な成長が描かれている。ここだけ見ればとても感動できる。だがしかし…。
 
ここで重要になってくるのが、クトリの感動に対してどういう要素が必要だったかという点になる。必要なのは世界観の説明とヴィレム自身の説明の2点だろう。
まず世界観の説明は、獣がいること、その正体が人間であること、妖精兵の正体とその末路、そして精神の侵食などの説明は作中で十分になされている。これは問題ない。これらの背景がなければなぜクトリが1話の時点で死なないといけないのかわからないし、12話の時点でなぜクトリが死にかかっているのかがわからない。
 
そして次に重要なのがヴィレム自身の背景。これが不足している。具体的には物語開始時点での主人公の背景と心理描写が不足している。ちなみに原作でも同じく不足しているのでアニメで尺が足りずに描ききれなかったという訳ではないはず。
 
ヴィレムがどういう過去があったかはアニメでもなんとなく想像できる。元勇者であったこと、孤児院の出身であること、アルマリアと約束をして守れなかったことなどがある。けれども、それに対してヴィレムの感情が描かれていない。そういうことがあったという事実しか書いていない。
 
物語中のヴィレムの成長は1話の時点では死人のように生きていたが、12話の時点ではクトリを幸せにしたいと思っているところだろう。妖精倉庫での生活を通して前向きに生きていこうと想い始めたのが変化だと思う。
 
僕はこの変化とヴィレムの背景が不明確だったと思っている。なぜ死人のように生きていたのか、勇者として世界を守るために戦っていたが、中途半端に人生が終わってしまった。
 
そして目覚めたら地上が滅びていて、アルマリアとの約束が守れなかった。そのためどうしようもない気持ちから適当に街でふらふらと生きていたのだろう。だろうというのは作中での説明が薄く、ヴィレム自身もそのことに関してあまり説明がないから。つまり物語の開始時点でのヴィレムの立ち位置がもうすでによくわからないものになってしまっている。
 
せっかく12話で妖精倉庫で生きて行く理由が見つかったってわかりやすく自身の成長を述べているのに、1話での立ち位置が曖昧だからその変化がわかりづらいため、感動がなくなってしまっている。
 
その後妖精倉庫に派遣され、獣と戦う兵器にされている子供たちを見て、過去の孤児院や勇者の経験を重ねてしまう。そこで妖精たちに感情移入する。そこでクトリの面倒を見て、死にかけているクトリを助けたくなる。そのために地上へ向かって、クトリが昏睡している状態になり、獣に襲われている飛行艇を救うために戦って、ネフレンを救うために地上へ落ちる。
 
そしてなぜヴィレムがクトリのことを好きになっているかもわからなかった。クトリに好意を寄せられていたこと、クトリの様子がかつてのアルマリアを重ねてしまったからヴィレムも好きになった…のかな。ヴィレムにとって妖精たちには守ってあげる存在であって、好きになる理由は見られない。
 
クトリは物語のあの時点で一番守ってあげる必要がある存在だったに過ぎない。死にそうだったから、修行もつけて、約束もした。地上へ行って剣を取りに行こうとした。それにクトリが惚れてしまう理由はまあわかった。けどヴィレムがクトリを好きになる理由がない。
 
おそらくヴィレムがクトリを好きになる原因として考えられるのが、クトリとの生活を通して過去を前向きに捉えられるようになったという点。妖精倉庫での楽しい生活とその背景に触れたっていうのが理由なんだけど、それは妖精たちに対する想いであって、クトリ自身に対する想いではない。というと残った理由が、ただクトリが自分のことを好きになってくれたから、という理由しかない。
 
クトリが自分のことを好きだから、自分もクトリを好きになってこれからも生きていたいと思うようになった。告白はただの勢い。獣の正体が人間だとわかって、クトリ達妖精を苦しめているのが自分たちだとわかって贖罪の気持ちで告白した…のかな。
 
つまり妖精倉庫での生活を通して生きる意味を思い出して、自分を好きでいてくれる人を幸せにしたいと思った。ということだろう。この好きでいてくれる人は別にクトリである必要はない。
 
いろいろ書いたけど、結局は1話の時点でヴィレムの苦悩があまり描かれていないため、前向きに生きていきたくなったという変化がわけわからないことになっている。1話の時点で結構前向きじゃないですか。そこまで絶望している様子がないので最終話までで変化がわからない。
 
そのため11話でのヴィレム自身の精神的な変化を振り返るシーンで感動がなくなっている。ヴィレム自身の成長がないため、キャラクター性が薄くなっている。そのためクトリに影響を及ぼす原因の人が曖昧なため、連鎖的にクトリの感動も微妙になってしまっている。
 
個人的にはヴィレムが達観し過ぎていたのは好きではない。しかも物語の全てでヴィレムは自分の思ったようにしか動いていない。ヴィレムの行動に対して全ての人が同意している。ある意味ヴィレムが世界を動かす存在になってしまっている。そういう意味でもヴィレムは物語を都合よく動かすためのアイテムになっている。
 
なのでしっかりとヴィレムの1話時点での背景が描かれているとよかった。ヴィレムは終始自分の心理的な描写がないため、ヴィレムの気持ちがわからない。ヴィレムがしっかり過去を振り返っているのって11話と12話くらいしかない。
 
そのほかは勇者だったとか、孤児院にいたとか、過去の事実しか書いてない。そのためヴィレム自身がただの記号に陥ってしまっている。クトリの感動を呼ぶための、つまり物語を動かすアイテムになってしまっている。1話の時点からヴィレム自身も苦悩し、妖精達をなんとかしようと行動したり、そこの経験から過去の想いを考えたりしたりするシーンがちゃんと入っているととよかったかな。
 
 
クトリとしての物語や世界観はとてもよくできている。結局最終話まで見たしね。感動できる要素もあるのになんでこんなに微妙なんだろうと思ったので、自分なりに理由を書き連ねてみました。つまりはヴィレムの精神的な変化がよくわからんってことです。その原因がスタート地点でのヴィレムの気持ちが曖昧だから、最終話での苦悩しても1話と11話の差分が理解できなくなる。そしてヴィレムがよくわからないからクトリのこともよくわからない。そのため感動が微妙になるってことです。
 
というか12話の苦悩を1話で語って欲しかった。
 
同じことなんども繰り返したけど、僕も書きながら理由がはっきりわかったのでこれでやっと別のアニメ見れます。
 
あーすっきりした。
 
それではー

 

※小説版の感想です。

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