冴えない彼女の育てかた 5巻 (2013) 感想 「ゲームと小説の書き方は違う・文章書き方講座」
評価:★★★★☆(星4つ)
5巻読了。アニメで言えば2期の部分。
シナリオ全体から言えばヒロインが一周して今回から2周目なのかな?
詩羽先輩がシナリオを書き上げる。2つのシナリオを用意され、詩羽先輩からどちらがいいか倫也君が決めるように言われる。どちらもいいシナリオなため、迷う倫也君。
迷った末に、加藤から試しにゲームを作ってみるように提案される。そして作ってみて気づく。詩羽先輩のシナリオはゲーム向けではなく小説向けだった。詩羽先輩を説得し、修正をかける。2つのルートをゲーム向けに修正し、加えてハッピーエンドルートも追加することにした。
シナリオは完成し、いい雰囲気になる詩羽先輩と倫也君。そこに悔しさをにじませる英梨々の姿があった…
そんな感じだった。詩羽先輩と倫也くんを中心としたギャグ満載の交流、倫也くんのプロデューサーとしての資質とシナリオライターとしての成長がよかった。
どちらにしても1日では読めないけど。
加藤の空気描写は小説だからできること。登場させなくてもそれがネタになるから一石二鳥だよね。
加藤がすでに帰ったと、いつから錯覚していた……?
英梨々の挿絵も可愛いです。恥じらいは女の子の可愛さを引き立てますね…
そんな感じで前半はかなり愉快だったけど、後半は結構シリアスだった。
信じるとは全面的に盲従することじゃない
あいつがディレクターとして最初から正しいことをやってたって、思い知った。あいつは、ゲームの経験があるシナリオライターを、チームごと連れていた。それでいて内容をしっかりチェックして、適度に口を出し、自分が信じるに足るゲームを作り上げていった。スタッフを信じるってことは、盲従するってことじゃない。信じる作家の出してきたものを自分の目で見て、それが作品として素晴らしいと判断して、初めて信じているって言えるんだ。
口を出さなかった倫也くんの気持ちもわからなくはない。小説家としてすでに実績がある人のシナリオに意見を出せる一般人なんかいないでしょ。大学生的には教授や博士課程の人の研究に口を出すみたいなものだと思ったら、おそらく僕なら何も言えない。
完璧に見えたならなおさら。今回だと、実際にゲームを作って見て初めてシナリオの不十分さに気づいた。ゲームを作ることによってかけていた視点を取り戻すことができた。別に倫也くんが詩羽先輩を盲従していたわけじゃない。
ゲームのシナリオに小説の書き方が合うとは限らないっていう視点が、ゲームを作る前にはなかっただけ。
上の心情の言っていることはもっとも。だけど盲従まではいかないんじゃないのか。それに気づいた後にしっかり行動しているから、別に問題ない。
「私は本気でやった……あなたのために何日も捧げて、魂を削って、血反吐を吐きながら書いたの……今更それを否定しないで……っ!」
そんなことを言われても相手に納得できる形で正しさを示したのだから、倫也君は十分偉いぞ!
シナリオの書き方・とにかく書けよ
とにかくなにも考えずに、『まずはかけ、とにかく量をかけ、立ち止まるな』という詩羽先輩のアドバイスに従い、感情の赴くままにテキストを垂れ流しにしていた俺は、本当に久しぶりに後ろを振り返る。
「まあ今のところ、ゴミの大量生産でしかないけど」「あぅ」……けれど言っていることは全然色っぽくないどころか、かなりどぎつい「でもね倫理君、ゴミでも量産できるってことは大事なのよ?」「ほ、本当に……?」「もちろんよ。だってどれだけ駄目で救いがなくて読むに耐えない文章でも、とにかくありさえすれば、それを鍛え上げることはできる。でも、元から存在しない文章を鍛えることはできないわ」「フォローしながら同時に攻撃するのやめて」でもやっぱり、ドキドキする。興奮する。「だから描き始めて間もないうちは、とにかく考えるよりも書く。そして推敲は全部描き上げてから。途中で戻ったりすると、いつまで経っても完成しないわよ?」
大作を作り上げたシナリオライターだけあって、文章を書く時のやり方や信念が濃い。2巻の時にもプロットシートが乗っていたけど、文章を書くこと関しては情報がたくさんあって、書いている人の考えがじわじわ伝わってくる。詩羽先輩を通り越して作者自身である丸戸さんの体験なんだと感じる。エロゲーと小説は書き方が違う、というのはまさに両方やったから丸戸さんだからこそ説得力がある。
まあ倫也くんのシナリオに関しては、本当に3日でかけるのか? とは思ったけど。
ブログを書いて思ったけど、書かないとまとまらない思考というものがある。普段はなんとなく過ぎ去ってしまう経験や、本で読んだ時の内容が書くことによって具現化? することがかなりある。実際アニメでスルーした部分を小説で読んで、1巻ずつ書くことによって毎巻いろんな気づきがあった。こんなにスルーしていたのか! と思うくらい。
この本はとても参考になった。この人も考える前にとりあえずかけよ、とのことだった。
だから量を書くというのはとても大切なこと。思考がまとまるし、あとで内容を削ることはいくらでもできる。
物語はノリで書いたことあるけど、あれも書いてまとまっていくという部分はあった。まあ僕の場合は、まさにゴミを量産しただけなので、物語を書く大変さがわかったっていう経験を得ただけだったけど。書いても会話ばっかりだし、伏線とか貼る前に文章を書くだけで精一杯になるし。色々大変だった。アホみたいに都合がいい設定の異世界転生ラノベでも簡単に出来上がるわけじゃないんだなぁ……と、おかげでそう思えた。
その次から小説を読む視点がかわった。楽しいかどうかだけじゃなく、文章の描写の方まで注目するようになった。この人は会話が多いな、この人は心理描写の部分がかなり詳しいな、とかとか。
シナリオにしても、ブログにしても、文章はとにかく書こう!ということでした。
エロゲー・ギャルゲーの魅力、それは没入感ーー
会話の要素が絡まって、けれどそいつらはどれも突出してなくて、控えめに作用しあって、最終的にはシナリオへと突入させるための助けになる……それこそが、他のオタクメディアにもない"紙芝居ゲー"って文化だ
10年前ならとにかく、エロゲー(紙芝居ゲーム)はすでにオワコンになっている。現在売れているものはあからさまな抜きゲーか、Keyとかニトロプラスとか超王手のゲームメーカーのもの。後者に至ってもエロゲー以外にコンテンツを展開をするようになっている。エロゲー単体で売る時代は終わっている。
けれども、それは”売れない”からであって、エロゲーの形式がクソってわけじゃない。
エロゲーはアニメと小説の中間になっている。アニメほどビジュアルが動くわけじゃないけど、小説ほど少ないわけじゃない。アニメほどじゃないけど音はついてるし、背景もある。小説ほど文字に情報が偏っているわけじゃないけど、アニメほど少ないわけじゃない。
じゃあエロゲーのいいところってなんだろうというと、まさに倫也くんが言っている通りで、わかりやすく言えば「没入感」です。
アニメはビジュアルと動きでわかりやすいけど、自分のペースで進められないから感動や興奮をしても考える時間がない。小説は自分のペースで読み進められるし、考える暇はあるけど情景や声や人物像は読者の想像次第になる。
けれどエロゲーはアニメに近い状況が設定されながらも、小説のように自分のペースで進められる。
だから没入感で言えば、小説とアニメは比較にならないほどのパワーがある。加えて動きの少なさを克服しようと、立ち絵をアニメみたいに動かしたり、エロゲーの中にアニメやムービーを入れたり、メーカー側も頑張っている。
僕もたくさんエロゲーをやったわけじゃないけど、プレイしたものは記憶に焼きつくものばかりだった。僕の中で最高傑作の物語である「マブラヴオルタネイティヴ」はまさにエロゲーというコンテンツでしかできない感動を呼び起こす完成度を誇っている。ちょっとそれるが、マブラヴがアニメ化できない理由は山場の展開の遅さだけじゃなく、小説のような心理描写がアニメでは難しいからじゃないのかと思っている。
なにはともあれ
最後に
最初の頃はアニメと同じで退屈だったけど、だんだん小説でも面白くなってきた。会話中心だったお話も、少しずつ心情とか会話以外の部分も増えてきた……気がする。
アニメ2期の売り上げも順調みたい。3期も期待が持ててきた。
すぐ6巻も読みたいと思います。
それではー