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結城友奈は勇者である -鷲尾須美の章- (2017) 感想「満開は完全な悪ではない」

結城友奈は勇者である-鷲尾須美の章-Blu-ray

評価:★★★★☆(星4つ)
 
2014年に1クール放送された「結城友奈は勇者である-結城友奈の章-」の続編。前作の2年前を描くお話。
 
 
なので、この作品から見ても問題ない。
 
 
 
そもそも雑誌連載は鷲尾須美の方が先なので、当然といえば当然。だけど結城友奈のお話の面白さや絶望感は「満開」というシステムの是非にある。なので、僕的には先に結城友奈の章を先に見るべき。こっちの方がより大きな絶望と衝撃が味わえる。
 
 

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以下ネタバレを含む感想。結城友奈の章のネタバレもアリ。
 
 
 
 

 

 
 

1~4話前半 日常編

1~4話前半までは日常。ギャグに振り切っていたり、日常生活を通して女の子達がわいわいしていた。「ごちうさ」をはじめとするような女の子を愛でる系のアニメはあまり好みではない。チノちゃんは可愛いと思うけど、核となるストーリーがないアニメはツライ。そんな感じで4話の前半まではさらっと見ていた。
 

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1~3話を通して乃木さんと三ノ輪さんのキャラクターを知り、鷲尾さんがコミュニケーションを取る。このことによってさらに勇者として戦いに対する意識を増していた。いきなり1話早々から絶望的な展開は望んでなかったけど、3話も女の子のふれあいを見るのはちょっと辛かった。
 
 
 
 
鷲尾さん自身は国防とか好むくらいなので、みんなのために戦うという意思ははっきりしていた。だけどコミュ障(笑)なのであまり友達がいない。そんな中で勇者に選ばれたことをきっかけに、同じく勇者になった乃木さんと三ノ輪さんと交流を始めた。3話は国防体操とかギャグに振り切っていたけど、4話との落差を出すためだったのかな。
 
 
 
 
 
 

4話後半 銀ちゃん死亡

ここからが本領発揮。一気に3体攻めてきて、不意打ちで乃木さんと鷲尾さんがあっけなくやられる。銀が3体を引きつけてボロボロというの表現でも足りないくらい悲惨な状態で勝利する。
 
 
なんで満開を使わないんだよぉ!!
 
 
 
と思ったけど6話まで見て納得。この時点では満開システムが搭載されてないんですね。満開システムが搭載される前の勇者がどう戦っていたのか、それを知るためのお話が鷲尾須美の章。前作と比べて今作の3人がかなりボロボロになっていた描写が多かったのは、まだ精霊がいないため防御が甘かったからということになる。
 
 
 
 
4話を見た時では、あっさり乃木さんと鷲尾さんが退場したのが少し不満だった。もうちょっと3人で奮闘して欲しかったと思っていた。だけど、敵が誰かもわからない、相手が何してくるかもわからない、敵の数もわからない。そんな状態で追加支援なしで3人だけで戦えというのはなかなか酷な話。そう考えれば一発でやられてしまうのもしょうがない気がした。
 
 
 
 
 

5~6話 満開登場

いよいよ満開が搭載される。5話の最後のシーンで満開という言葉が出た時には「こういう流れなのか…」と思った。貴重な勇者がそう簡単にコロコロ死んでもらっては困る。その対策としての満開と精霊。決して勇者のためを思った配慮あるシステムではなく大赦側の都合が見え見えなのが面白い。
 
 
 
1期でも満開の実力は示されていたけど、「生き地獄」という欠点ばかりが強調されていた。だけど今回の4話の銀の状況が示された後だと、満開と精霊を実装するという考えは必ずしも「生き地獄」の一面だけではないのだとわからせてくれる。乃木さんの最後のセリフ「私たちは生かされている」が全てを物語っていた。
 
 
 
1~4話で戦いのたびに3人がボロボロなのは、精霊と満開がないとどういう戦いを強いられるのかを示すためだと思えた。
 
 
 
マイナーだけど、マブラヴの世界と似ている。マブラヴはBETAという地球外生命体が地球に攻めてきて、30年足らずで人類が60億から10億人にまで減少してしまった世界の話。ユーラシア大陸は占領されて、地球の地形や天候がむちゃくちゃにされて、あと10年で人類は絶滅すると言われる状況にある。
 
 
 
その世界で戦術機と呼ばれるロボットに乗ってBETAと戦うのだけど、パイロットの育成はめちゃめちゃ金がかかる。なので、パイロットが傷ついてもすぐに戦場に戻れるように擬似整体と呼ばれる腕や足など人工的に作られた組織を体に移植する技術が発達している。理由は金をかけて育てたパイロットがすぐに使い物にならなくなったら困るから。
 
 
満開と勇者の関係にすごい似ていた。
 
 

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バーテックスが登場して、満開を使って戦うけど、案の定後遺症が出て鷲尾さんは記憶を失う。乃木さんはリスクに気付きながらも鷲尾さんと世界を守るためにバーテックスの群れに突っ込んでいく。
 
 
鷲尾さんが記憶を失っているとわかった瞬間に全てを察して顔つきが変わる。わっしーを励まし、一人で何十体ものバーテックスと戦う乃木さんはまさに勇者。真の主人公はあなたです。1期もそうだったけど、最終的に、近くにいる誰かのためっていうのが最大の戦う理由なのか。
 
 
 
と、ここまでが1~6話までの整理。次からが一番言いたいところ。
 
 
 

満開システムは完全な「悪」ではない

鷲尾須美の章は満開とはなんたるかがわかる話だった。1期の満開システムだけ見れば「生き地獄」と表現するしかない。だけど今回の銀の状況を見れば、満開は絶対絶命の状況で犠牲を払えば生き残れるチャンスを与える。そう考えれば人道的な兵器とも思える。それに1~4話と6話を比べて見てみると、精霊なしでバーテックスと戦うことはリスクが非常に高い。
 
 
 
ちょっとここで満開あり、満開なしの状態を整理する。
 
 
 
満開あり
  • 圧倒的な力を使える代わりに使用するたびに体の一部に異常が起こる
  • 絶望的な状況を打開できるチャンスがもらえる
  • 精霊のサポートがあり、戦闘を安全にこなせる
  • 意識がある限り戦い続ける
 
 
 
満開なし
  • 戦いのたびにボロボロになる
  • 敵が強くても根性でなんとかするしかない
  • 死ぬ可能性が高い
 
 
 
じゃあ何が問題なのかといえば「満開のリスクを説明しないこと」にある。6話で新システムだと言われて、なんのためらいもなく満開を使ってしまっている。だけど使用後に体の異変を感じている。乃木さんは途中で気づいていた。それでもリスクを承知の上で、満開を使用して戦うことを選んだ。
 
 
 
 
なんの説明もなしにリスクが高い行為をさせるのは現代的な倫理に即して考えれば、ものすごく問題がある。似たような言葉ではインフォームドコンセントってやつだ。ちゃんと同意を得ることが必要。
 
 
 
 
 
 
 
だけど勇者の適正者がすごく少ないなら、そもそも戦ってもらわないと困る。いちいち同意なんて取ったら勇者なんていなくなってしまうのかもしれない。現実でも一緒だけど、人道的って言葉は裏に何か良からぬ考えを隠しているか、よっぽど余裕があるやつにしか使えない。
 
 
 
 
あの世界はどう考えても余裕はない。故に人道的配慮なんてしている暇はない。配慮をして四国が滅びたら、それこそ本末転倒。大赦側も四国を守る義務を負っていることを考えれば、むしろ勇者の扱いに関しては当然のことをやっている。もちろん感情的には喜んでやっている訳ではないでしょうし。そこらへんは鷲尾さんの先生の苦しみもかなり描かれていたことからわかる。
 
 
 
 
 
じゃあ勇者側はいきなり「世界のために戦ってください」と言われて戦えるものなのか。エヴァのシンジくんみたいに逃げたり怯えたりするのが通常の反応だろう。でもそれも問題ない。ある意味あの世界は神樹を神とした宗教じみた状況になっている。
 

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神樹という神様が存在して、神樹のおかげで生きていける。だから神樹から勇者として選ばれたことは光栄なことで、周りもそう扱ってくれる。勇者システムという武器もあり、一緒に頑張る友達もいる。何より「あなたが戦わないと世界が滅びます」なんて言われたらそりゃ戦うよ。ここは昨今流行りの「デスゲームもの」との共通点。どーでもいいけど、ジャンププラスにそういう作品が多いよね、戦わないと死にますよ系の漫画。僕は「デスゲームもの」って言っている。
 
 
 
 
つまり、当たり前かもしれないけど、やってることは軍隊と全く同じ。世界が滅びるのを防ぐために国=大赦が全力を尽くす。国中に神樹という思想教育も行う。兵士は育てるし、装備も開発する。せっかく育てた兵士に死んでもらっては困るから、勇者システムという武器、精霊という盾、満開という必殺技を与えた。そして満開した人には、残花の代償として最大限の保証が与えられる。
 
 
 
 
まとめると、
 
満開と精霊は、瞬間的に訪れる死を遠ざけてくれるという利点、そして国を守るという大赦の立場を考えれば、完全に「悪」と断定することはできない。
 
ってこと。
 
 
 
そして「勇者であるシリーズ」は、四国vs神。勇者という軍隊。その絶望的な状況にある人間の葛藤と世界観を描く物語なのだ。と、僕は(とりあえず)結論づけた。まだお話は途中だからね……
 
 
 
大赦側の人の話とかあれば面白そうだなぁ。
 
 
 
だけど、結城友奈の章+鷲尾須美の章だけではまだ説明が足りない部分がある。
 
 
 
 

 世界観に関する情報はほとんどわかっていない

そう、まだキャラクターの話が中心で、肝心の世界観の説明がない。
 
 
 
今の所は、
 
 
 
  • 神樹様という神がいる
  • 大赦という組織があって、そこでは勇者を取りまとめている
  • 世界は四国以外滅びている
  • バーテックスという化け物が定期的に四国を襲ってくる
  • 選ばれた少女が神樹の力を借りてバーテックスと戦う
  • バーテックスはほぼ無限に湧いてくる
 
 
 
 
このくらいしかわかってない。疑問は色々ある。根本的な「そもそも何よ?」というものがたくさんある。
 
 
 
 
  • なぜ世界は滅びたのか
  • 大赦はどういう組織なのか
  • 1期の後の世界はどうなったのか
  • 友奈たちはどうしているのか
 
 
 
 
そして、ある意味ご都合主義的な終わり方からどう繋げていくのか、何よりあの絶望的な世界にどう決着をつけるのか。めちゃくちゃ楽しみです。「勇者の章」では世界観に関する説明があることを期待したい。
 
 
 
 
 

まとめ

鷲尾須美の章も6話で終了。総集編を挟んだ後にいよいよ「勇者の章」がくる。鷲尾須美の章よりここがずっと楽しみだった。総集編なんて挟まずにさっさと次に進んで欲しいのだけど。事前に6話分を映画化+総集編で現場の方々のパワーを蓄えられていると信じて、後半6話を待ちたいと思います。
 
 
 
 
前作の感想も書いているので、よければ合わせてどうぞ。

 


 

 
「勇者の章」を見たらまた感想を書きます。まずは後半6話で描かれる勇者の物語を見届けましょう。
 
 
それではー