物語の思考法

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Fate/stay night Heven's feel 2章 lost butterfly (2019) 感想「桜の悲劇と士郎の物語の終着点」

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評価:★★★★★(星5つ)
 
Fate/Stay nightの3つ目の物語であるHeaven's Feel。3部作のうちの2番目の物語。今までFate/stay nightを見ていた人なら絶対に満足できる内容になっている。1章ではわからなかった桜の秘密が続々と明かされていき、聖杯戦争自体も最終局面に向かっていく。
 
そのため1章よりもはるかに物語が動き、かつ見ている側の心をかき乱すシーンが多いため、前作よりもはるかに盛り上がった。そしてかなり衝撃的なラストを迎えたため、次回への期待も膨らまざるおえない。
 
 
感想を書く前に僕の前提を紹介。僕のFate歴は以下の通りです。
 
Fateのアニメはほとんど見ているけど、Heven's Feelは1部以降はわからない人です。それを前提に今回の感想を語っています。
 
 
1. 士郎の物語の終着点
2. 桜の悲劇
3. 世界最高峰のアニメーション
4. 3章への期待
5. 気になった部分
6. まとめ
 

 

前回の感想が気になる人はここから見てみて下さい。


 

 

1. 士郎の物語の終着点

Heven's Feelの2章での士郎の最大の変化が「借り物の願い」ではなく「自分自身の願い」を持ったことである。正義の味方という切嗣の理想を抱いて生きてきた士郎が、自分自身の願いを抱く最初の場面があの雨のシーンになっている。
 
これに関しては僕がずらずら書くより「TYPE-MOONの軌跡」にあるFate/Stay nightのとある説明がものすごく丁寧に描かれているので引用する。
 
以上の2つのルート、セイバーと凛のシナリオを経たことで、士郎の歪みには一つの決着がつけられました。
 
しかし借り物の願いを肯定することと、自分自身を肯定することはまた別の問題です。
 
言い換えれば、この時点では士郎自身が本当に何を願っているのか、自分の内側から湧いてくる欲望はどうなっているのかという点については明らかになってないのです。
 
それについて、美しい終着点を見出すのが、最後に用意された桜ルートということになります。

 

  

その欲望が「桜だけの正義の味方になる」ということだろう。
 
士郎が借り物の願いを捨てさせるための存在が桜であって、借り物の正義を捨てるに足るだけの理由と背景を描くのが1章の役割。そして1章の背景を元に、桜だけの正義の味方になる決断を描くのが今回の2章の役割。
 
だからこそ「自分自身の願い」得たのがあの雨のシーンはとても重要になってくる。1章であった2章の予告でもあるからこれは間違いない。しかし、だからと言ってこの雨のシーンで士郎が桜の正義の味方になるとそう決めたとしても、完全にきっぱりと誰かの正義の味方になることを諦められたわけではないのがまた面白い
 
士郎の人間らしい迷いが出てきたのが間桐臓硯との会話ののちに桜を殺しかけるシーンだろう。桜を生かせば町の人が全滅するかもしれない。だけど桜を守りたい。加えてセイバーがおらず、凛もイリヤも自分自身も十分に戦えないこの時の状況では2つの願いを叶えることは非常に難しい。誰かの正義の味方になるというかつての願いと、桜だけの正義の味方になるという自身の願いで揺れ動く。
 
そしてまた「TYPE-MOONの軌跡」の一文が的確な説明をしているので引用する。
 
このルートではメインヒロインを務める間桐桜は、魔術師の家計に生まれた少女であり、祖父の企みによって精神を侵された結果、正体不明の黒い影を操ることで大量の人間の命を奪ってしまいます。しかもそれを放置すれば、彼女は大量の魔力を蓄え、巨大な災厄としてより多くの人間を殺すことになります。
 
 
ここで士郎は、「正義の味方」を目指した人間としてどのように振る舞うかという決断を迫られます。桜は士郎にとって自分の面倒を見てきてくれた後輩であり、愛を向ける対象でもある。彼は葛藤の末、世界中の人間を敵に回してでも桜の味方でいるという選択をします。
 
 
いうなればこれは、士郎が「正義の味方」であることを放棄した瞬間です。大勢の人間を守ろうとするのではなく、目の前にいるかけがえのないひとりの味方でいるという選択。
 
 
ここでどちらの選択が正しいかというのは問題ではありません。重要なのは、衛宮士郎が借り物の願いとしての「正義の味方」ではなく、その理想を捨ててまで桜の味方でいたいという欲望を持ったことです。
 
このあたりのシーンはセリフはほとんどないけれど、士郎の葛藤が手の震えに現れていた。そして桜を見捨てる自身の姿に対して「裏切るさ」と言ったのは、今までの自分との決別をすることを意味する。
 
 
本当の意味で桜だけの正義の味方になると決めたのは、雨のシーンではなく桜を殺しかける時だったのかもしれない。
 
 
そして士郎関連ではアーチャーとの関係も見逃せない。個人的に良かったのはUBWルートに行かない理由が察することができた瞬間だった。具体的には士郎が桜だけの正義の味方になると誓った次にあった、士郎と桜が凛とアーチャーの横を通り過ぎるシーンのこと。ここでこのルートがUBWに行かないのが決定したんじゃないのか。
 
 
士郎が桜を守ると決めたことが理解できたため、士郎を殺すことを諦めた。アーチャーが自分の私怨を優先して士郎を殺してしまえば、桜が絶望してしまう。桜を傷つけることを、未来の士郎が望むわけがない。だからこそ、アーチャーは士郎に警告だけし私怨を抑えたのかなぁと。
 
 
もしくは、この士郎を殺したところで自分の運命が変わらないと察したからか。
 
「切嗣の願い」である正義の味方を貫いて貫き通した結果、誰かを救うために誰かを殺し続ける矛盾した運命に絶望した姿が聖杯戦争で召喚されるアーチャーのエミヤ。だけどHeven's Feelの士郎は桜だけの正義の味方になるという「自分自身の願い」を得た。この時点で士郎はもはやアーチャーとは明確に違う道を歩み始めた。それゆえにアーチャーは見逃したかもしれない。
 
 
これだけ考察しておいてものすごく最悪なことに、このシーンのアーチャーのセリフを詳細に覚えていない・・・ 本当にもう一回見なければ、もやもやしすぎて生活に支障が出てしまいそうだ。
  

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2. 桜の悲劇

2章では桜の秘密が徐々に明らかになる。
  • ライダーのマスターで、聖杯戦争に関わっていたこと。
  • 幼い頃に親から引き剥がされたこと。
  • 慎二から性的な暴行を受け続けたこと。
  • 既に処女ではないこと。
  • 虫に体を蹂躙されていること。
  • そのために常に魔力供給が必要であること。
  • そして、町の殺人を犯している黒い影の正体が桜であること。
 
そんな中で最悪の状況の中で、桜の心の救いは士郎の存在だった。間桐臓硯の命令とはいえ、士郎とのふれあいによって桜の心が大きく変わった。桜にとっては士郎の存在はめちゃくちゃ大きい。だからこそ士郎には聖杯戦争に関わって欲しくないし、自分の秘密も知られたくない。
 
徐々に明かされる桜の秘密。それを士郎が受け入れ続けることが二人の関係性の進展を表している。だけど黒い影の正体である桜のために士郎がこれ以上傷つくのを避けるために桜は士郎の元を去る。だけどそれは桜の心の支えを失うことだった。
 
桜の理解者のライダーも最後の令呪を使って、支配権を失う。そして実家に帰って慎二に犯される瞬間に、心の支えを全て失った桜は世界に絶望し、聖杯に染まってしまう。
 
桜についてはもう悲しいとしか言えない。そして士郎と違って人物像の理解は難しくない。誰が見ても納得の悲劇のヒロインである。けれどこの世界はちょっと桜に厳しすぎやしないか。
 
続く3章はそんな絶望に染まった桜を士郎が全力で救いに行く物語なのだろう。本当に早く救ってあげて欲しい。
 
 
また桜の物語は主題歌にも現れていた。I beg you = 私を抱いて。2章を見たあとならこのタイトルの意味が理解できる。やっぱりこれも桜の心境の歌なんだろう。桜と黒桜をとりまく心境が歌に詰まっている。
 
ねぇ輪になって踊りましょう、は実際に輪になって踊っていたシーンがあった。もう辛い、優しい世界に行きたいわ、一つに溶けてしまいましょう、とか歌詞を読むだけで悲しくなってくる。
 
こういう歌にまで世界観が詰まっているのはとても良い。
 
 

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3. 世界最高峰のアニメーション

  • 図書館の戦闘
  • バーサーカー vs セイバーオルタ
  • アーチャー vs 真アサシン&黒い影
 
大きく分けてこの3つの戦闘シーンがあった。僕は物語はある程度語れるけど、アニメーションに関しては語彙力を失った説明しかできない。こればっかりは見た人ならわかるはず。間違いなく世界最高峰のアニメーション。アニメは年に100作品くらい見ているけど、これらの戦闘シーンを超えるアニメーションは見たことがない
 
Zeroの時点で既にやばかった。
だけどUBWがそれ以上にやばかった。
それをHeven's feelがさらに超えてきた。
 
3章ではこれよりすごくなるのかと思うと、楽しみで胸がはち切れそうだ。
 
 
 

4. 第3章への期待

今回も前回と同様に次回予告があった。黒い影に飲まれたセイバーとバーサーカーの姿。そして、それに立ち向かう士郎。赤い包帯が解けて今にも戦い始めそうな姿だった。やはり士郎が黒い影に飲み込まれたサーヴァントとどういう風に戦うのかがすごい楽しみ。
 
アーチャーから受け継いだ魔術回路を使った戦闘がいったいどうなるのか。UBWでは凛の魔術回路だったけどアーチャーは未来の自分なので、魔術回路の適合度的にUBWよりさらに強くなっていそう。
 
そして絶望に落ちてしまった桜とどう決着をつけるのか。
士郎と桜が無事にお花見にいけることを祈りたい。
 
 
 

5. 気になった部分

1章からの疑問点
  • あの影は何者なのか
  • ライダーがなぜ復活しているのか
  • 桜と聖杯戦争との関わりは何か
  • 真アサシンがなぜ登場したのか
 
・あの影は何者なのか
A. 桜が操っている、聖杯が関係している、くらいか。
情報が小出しになってきたけど、まだ明確にはわからないと言った感じだった。間桐臓硯との会話シーンで説明はされていたので、これは自分の理解不足の可能性が高い。もう一回見なければ。
 
 
・ライダーがなぜ復活しているのか
A. 真のマスターである桜がやられてないから
桜がライダーと契約していて、それを慎二に貸している状態になっている。そのため桜がやられない限り、ライダーは消滅しない。1章で最初にセイバーにやられた時に、桜の令呪の1つ目の役割を終えた。
 
しかし上記の理由でライダーはまだ消滅していないため、1章の終盤にも登場できた。この時士郎を助けた理由は、間違いなく桜の命令で柳洞寺に行っていたはず。桜が帰ってくる士郎を迎えられたのは、ライダーが士郎を助けたことを知っていたからだろう。
 
 
・桜と聖杯戦争の関わりは何か
A. 桜がライダーのマスターであるということ、そして聖杯のかけらを埋め込んだ第二の聖杯ということ
ライダーのマスターという立場は2章の終盤で令呪を使い切ったため今回で終了。ライダー自体はまだ生きているので3章での活躍に期待。第二の聖杯としての役割は3章で詳しくされるはず。
 
 
・アサシンがなぜ登場したのか
A. 引き続き不明
 
 
というわけで、今回出た疑問を追加して3章への疑問点をまとめると
  • 真アサシンがなぜ登場したのか
  • 黒い影はなぜサーヴァントを吸収できるのか
  • 黒い影は他2ルートではなぜでてこなかったのか
  • 桜は最後の令呪でライダーに何を命令したのか
 
ここら辺が気になった。用意しておいた疑問もしっかり描かれていたので、そこはさすが物語が確実に進んでいる証拠だろう。
 
 

 過去の疑問点は前作の感想で。気になれば見てみて下さい。

 

 
 

6. まとめ

こんなに素晴らしい物語を最高のクオリティで味わえるのが幸せすぎる。ここまで完成度が高いアニメが他にあるだろうか。それぞれのキャラクターが強い信念をもって動く、密度の高い物語。そしてそれを十分以上のクオリティで描かれるシーンの数々。3章が2020年春だというが、もう待ちきれなくて仕方がない。
 
原点のFateの面白さ、そして物語とアニメーションの素晴らしさが実感できた最高の作品でした。